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丁度コロナ禍になる直前の2019年11月に、「実はお父さんね、脳卒中で亡くなった…」と母から電話があった。
僕はこの訃報を聞いた瞬間、自分が抱える心配事の大半が揮発するガソリンみたいになくなってしまったように思い、一気に安堵した。
「一週間ほど前にね、倒れているところを見つけて何回も揺り動かしてみたんだけど、ちっとも動かないから、これは今までとは違うわって思って救急車を呼んで病院で治療を受けさせたんだけど、助からなくて到頭、亡くなってくれたんだって思ったの。だって、もうこれで面倒見なくても良いでしょ。だから却って嬉しくて涙も出なかった…」
父は自業自得なのに息子がダメになった所為で孫も抱けないとそんな観点に立って俗なおつむで鑑定した愚かしい理不尽な嘆きから生じた鬱憤を暴飲暴食で晴らそうとする無茶をしたことも祟ってか糖尿病を患い、のみならず続発性自律神経障害を併発して何度も卒倒していたのだ。おまけに認知症を患い、癇癪を起こしたり、排便を便所以外でしたりして酷く困らされた母は、苦労が絶えなくて定期的に病院にも通わせなければならず、治療代が嵩み、先行きが危ぶまれていた矢先の父の死に諸手を挙げて喜んだのだ。僕も喜んだし、本来、母同様涙もろいたちなのに涙が一滴も出なかった。只々母が救われて良かったと思った。
「葬式はね、家族葬で済ませたの。慶一は皆に会いたくないだろうから通夜にも呼ばなかったけど、悪く思わないでね」と母は言ったが、悪く思うどころか助かったと僕は思った。客体としての自己を考えた場合、親戚のみならず弟にも現状の姿を見られたくないと思う程、人生に蹉跌したのだ。その要因は父にあると断言して間違いない。その恨みから言う訳では決してないが、こんな毒親であり、結局の所、老害になる高齢者は、ラスコーリニコフが高利貸しの老婆を殺しても良いと思ったように早くお陀仏になれば良いと思う。老害になる高齢者にシニアデモクラシーよろしく社会保障費を充てるのは浪費と同じことだから公的年金制度に沿って高齢者の年金を支えている現役世代、殊に若者の高齢者に対するヘイトが高まるのも無理はない。
第一、平均寿命が伸びすぎて高齢化、それに伴い国の負担、現役世代の負担が高まったこともあり国全体が貧困化して婚姻率も出生率も低下して少子化しているのだから社会保障費や教育費に充てるべき予算を軍事費に充てる今の政府の政策では少子化を防ぐべく現役世代に社会保障費や教育費を十分充てられるようにするには老害化する高齢者を間引くなり何なりして省くしかなく、そうするより少子高齢化を防ぐ道はないという危険思想が生まれる。
人生50年と言われた時代は、ぼける前に老いぼれる前に老いによる色んな病苦を経験する前に死ねるから良かったが、社会にとって害であり、マイナスであり、お荷物であり、年金のみならず療養費医療費など金食い虫であり、生きる値打、長生きする値打がない高齢者が多すぎるし、重要なポストに無用に無駄に長く居座る高齢者も多いから若い世代が不満になるのも無理はない。実際様々な高齢化による弊害が浮き彫りになっているじゃないか。
だからと言って経済学者の成田悠輔が言うように高齢者は老害化する前に集団自決した方が良いかと言うと、中には生きる値打、長生きする値打のある高齢者もいるだろうからそれではドラスティックに過ぎ、断種して家畜の品種改良をするように人種改良して生きる値打、長生きする値打のある人間だけにするといった具合に優生思想が実地に移され、実際にレーベンスボルンという収容所でドイツ民族の人種改良をしたナチスドイツのように劣等と見做された者たちへの安楽死要請が高じて大量殺害にリンクしてしまいかねない。
曾て沖縄戦に於いてアメリカ軍に投降させまいとする日本軍の命令に従い集団自決した住民たちや壕の中でアメリカ兵に気づかれまいとする日本軍兵士の命令に従い泣きわめく赤児を絞め殺した母親がいたように日本人は個に重きを置かず集団に重きを置く集団主義者なので、いざとなれば自分も我が子も犠牲にしてしまうから優生保護法が出来れば、高齢者が強要されるがまま集団自決してしまうだろう。
それを避ける為、皆に人生を全うすることを前提に生きる権利を与え、高齢になってから生かすか殺すかを判断する。最後の審判でイエスが天国行きか地獄行きを決めるみたいに?これは大変難しい問題だ。裁きを行う聖人君子が必要だし、過去の罪悪を告白して悔い改めると懺悔して命だけはお助けをと命乞いする者が腐る程、現れるだろうから…否、最後の審判がある上で皆に人生を全うすることを前提に生きる権利を与えたら皆、社会にとって有益な善人を目指して罪悪がなくなるかもしれない。
しかし、それはまず有り得ないことで現実的な解決方法ではない。況して老害になる高齢者を間引くなぞ幾らなんでも無理だろう。だから政府が近隣諸国を挑発し国民を苦しめるだけなのに国防を名目に防衛費倍増に向けて増税する上、社会保障費や教育費を削ってまでも軍事力強化の為に予算を充てる今の政策を刷新するべく本当に国民のことを思って減税し、重点的に社会保障費や教育費に予算を充て尚且つ、新自由主義を改め、非正規雇用を撤廃し、労働形態を安定させ、実質賃金上昇を図り、底上げして経済を活性化させる政策に切り替えないと、少子高齢化問題解決へのソフトランディングの道は開かれない。
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