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私は短冊状の紙をもう片方の手に取り、手持ちの楽譜を見ながら五線譜に沿って穴を開けていく。
ハンドルを押して穴を開けていくそれは驚く程に普通の穴開けパンチで、作業に没頭していく内に私がこれに対して受けた仕打ちやこれを見ただけで抱いていた恐怖どころか、つい先程まであれだけ怒って暴れていたにも関わらず穴あけパンチが意志を持っていることすら忘れそうになる。
幸い今回は初心者向けの簡単なもの、これがただの穴あけパンチだと錯覚するより前に作業は終わった。
「はい、出来ましたよ。」
「えー、もう出来ちゃったの?早くね?」
「あまり難しいものは作れませんからね。」
「つまんねーっつーか……マジで何これ、出来上がり楽しみにしてたのに全然分かんないんだけど。」
「これをさっきの機器にセットして、このハンドルを回すんです、ちょっと待ってください。」
「早くしろよなー。」
「はいはい。」
確か紙はこちらから入れるはず、と機器に紙をセットしてその紙を巻き取るようにハンドルを回す。
すると巻き取られる紙が流れていく中、穴あけパンチによって空けられた穴に合わせて、楽譜に書かれていた童謡が流れ始めた。
それは私や穴あけパンチが好む、心の底から身体を沸き立たせるような熱い曲とは対極的な音色だ。例えるならば、丁度今日のような夜の星明かりを思い出させる、そんな音色だ。
和音もなく主旋律のみの寂しい曲だったりその上穴を開ける位置がズレていたのか幾つか音が外れている箇所もあった。そんな好みとは正反対な上に粗末な出来の曲であるにもかかわらず、穴あけパンチは私がハンドルを回している間じっとその曲を聴き続けていた。
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