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「なんだよ、説教すんならしんみりしながらすんじゃねーよ。もっとアゲてかねーと気分ノらないじゃん。」
「すみません、それでも人が作ったものをそんなふうに穴開けてしまうのは、やっぱり良くないと思いますよ。パンチさんだってせっかく作ったものを壊されたら嫌じゃないですか?」
「あぁ~ん?おれッチが何を作るだって?つーか、お前も職人さんも、ホント同じ事しか言わねーのな。」
「それぐらい大切な事なんですよ。」
私にはもうこんな投げやりな言葉をかける事しかできない。
これも職人さんからの話なのだが、穴あけパンチ含め彼の文房具達は例の騒動の時に初めて意思を持ち、また初めて職人さんの仕事部屋から持ち出されて外の世界を知ったのだと言う。
心を持って間もない文房具達は知識はそれなりに持っていてもこの世界での生き方や人との関わり方なんかはまだまだ理解できていないらしい。職人さんが言うにはこの文房具達は話はできるけど物事の考え方は小さな子供と同じとの事で、穴あけパンチ達が何か失礼な事をしてしまった時は子供を育てるように教えてあげて欲しいとお願いされた。
しかし致命的な問題がひとつある、私には子供どころか妻も彼女すらいた事がない、最近ようやく弟子ができたぐらいなのだ。
早い話が私には子供を躾けたこともなければ躾ける才能もない。他人の作品を壊してはいけないという私達にとっては当然の事でさえ穴あけパンチを納得させるだけの理由を述べることができなかったのだから。
仕方がないので諭すことは諦めて話を変えてみる事にした。
「うーん、じゃあパンチさんは何でイロエンピツさんの絵に穴なんか開けようと思ったんですか?そっちの方がイカすからとか?」
「は?あいつの絵とかどうでもいいし。そりゃイカした絵描くんなら話は違うけどあいつがつまんねー絵描いてたってわざわざおれッチがイカした絵にしてやる筋合いなんかあるわけねーしさぁ。
つーか、あいつにとっちゃあんなもんいい感じに色置けた紙でしかないんだろうからさ、だから別におれッチが穴開けたっていいじゃんって話。」
「あー……よく分かんないですけど……もしかして、イロエンピツさんと喧嘩でもしたんですか?」
「は?ちげー……や、あってんのかな、どうなんだろ?」
「今パンチさんはイロエンピツさんの事どう思ってます?」
「すっげームカつく、前々からさームカつく奴だったけどよー、何だよあいつ贅沢抜かしやがってさー、いいじゃん描きたいって思ったら絵描けるんだからさー、つーかそもそも普段から自分の絵はサイコーみたいな態度取ってるクセにおかしくね?何なんだよアイツ、つーかさぁ……」
「あー……喧嘩しましたねイロエンピツさんと、それで絵に穴開けて出て行って私の所来たんですね。」
穴あけパンチから放たれるイロエンピツに対する悪口は止まる気配すら感じられない為、私は半ば無理矢理に結論をねじ込んだ。
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