穴あけパンチのNocturne

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昔の私は、最高にイカしたリミックスを作るにはディスコミュージック以外の曲にも触れることが必要だと考え、CDや楽曲の他にも音楽に関するあらゆる物を集めて試していた時期があった。 それはもちろん大いに今の私の糧となったのだが、中には糧にはならなかったもの、今の私の方向性が確立してからはめっきり使わなくなってしまったものもあり、それがこの棚の中に詰め込まれている。私の記憶が正しければ、この中にきっと穴あけパンチが役に立てるものが入っているはずだ。 「お、あったあった。ありましたよパンチさん。」 ホコリと小箱の中を掻き分けて見つけた小さな箱を、カタカタ踊っている穴あけパンチの前に差し出した。 「何そのきったねー箱。」 「まぁ……中は綺麗なはずですから。」 ホコリ被った箱は当然の事ながら不評で、それは箱から少し遠ざかる。顔があったら顔を顰めるか引きつっているのだろうと想像しながら箱の中身を取り出す。五線譜の描かれた細長い短冊のような紙と、ハンドルが付いた手のひらサイズの単純な機器のセットを見た穴あけパンチは今度はおずおずと言った様子でそれらに近付いてきた。 「何これ?」 「これは紙巻オルゴールです。」 「オルゴール?これおれッチ出番あんの?」 「もちろんパンチさんの出番が必要不可欠なんですよ。私も2、3回やっただけだから上手くできるかは分かりませんけど。」 「ふーん……てことは、この紙に穴開けんの?」 「そうですよ、自由に開けてもいいですけど、今回は私がパンチさんを使わせて貰いますね。」 「オーケーやったぜ!おれッチそれなら大歓迎!」 穴あけパンチを持ち上げ、これを道具として使い始めるとあれだけ賑やかだった穴あけパンチは動く事も話す事もなくなった。
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