4人が本棚に入れています
本棚に追加
小さな秘密4.1.
めぐみと別れた冬、そのまま死んだように白い世界でずっと倒れていたかった。
だが、それでも季節は巡る。
気持ちとは裏腹に春がやって来た。
2年に進級したのに、いつまでも前を向こうとしないぼくを見かね、祐太が声をかけてきた。
「夏生、お前ギター弾けたよな? おれのバンドでギター弾かない?」
祐太とは、大学入学前、住まい探しで上京した時知りあった。
「気分転換しろよ。いつまでもそんな顔してたら腐っちまうぞ」
ぼくらが住んでるのは、うちの学生をお得意様にした男子専用の4階建てアパート。作りが変わってるのが難点だったが、その代わり部屋代はとても安かった。
男ばっかりのアパートというのはどこか男子校のノリで、学生しかいないということもあって、夜中でも平気で友だちの部屋のドアを叩き、転がり込んでは溜まり場にした。
そのアパートの名前は「如月パレス」。
「どこがパレス?」
「なぜ如月?」
ツッコミどころ満載だったが、この際名前はどうでも良い。問題は風呂が共同だということだ。そして共同ということは管理人(つまり大家)もいるということだ。
元々どこかの会社の寮だったらしく、今どきこんなアパート無いよなと思ったが、部屋代の安さに負けたのと、案外面白くて出て行けず、このままここで4年間過ごしてしまいそうで怖い。
最初のコメントを投稿しよう!