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思わず駆け出して、寺崎さんとカレンさんの間に割って入った。
「……お前、確実に〝思い込み症候群〟確定な」
「ち、違いますよ!」
細めた目が冷ややかにこちらをみてぼそりと言うから、僕は懸命に否定した。
いつか、きっとカレンさんと想いが通じ合う日が……。
「カレンちゃん、午後から一緒に来てくれないか?」
「あ! 社長ぉっ、もちろんですぅ、必ず行きますっ」
ふんわりとカールした髪を靡かせながら振り返ったカレンさんの甘えるような声は、社長へと向けられる。
もう一度こちらを振り返ると、嬉しそうに満面の笑みを浮かべたカレンさんが、僕と寺崎さんの腕を両サイドから抱き寄せた。
「寺崎くん、影山くん、またねっ」
じゃっ、と手を振って鼻歌なんか歌いながら去って行く後ろ姿は、永遠に見ていられそうだ。
僅かに残るフローラルの香りはカレンさんだけの色香。
ぼうっとして突っ立っていた僕を突く寺崎さんに気が付いて我に返った。
「カレンちゃんて、ボディタッチが多いんだよ
。だからますます脳内騙されるんだよね。あれ、なんの気持ちもないからな。俺はようやくそれを受け止められるところまできたけど、お前は完全にやられちまってんな」
ははっと乾いた笑いをされて、僕はもう一度カレンさんの背中を目で追った。
もう、彼女になら騙されていたって良い。
心の中で誓った。
ふと、寺崎さんの方を見ると、何かを悟ったように呆れた顔をされた。そして、無言のまま立ち去ってしまった。
よし、また明日からカレンさんに褒めてもらえる様に頑張ろう。一気に仕事に対するモチベーションが上がりだした僕は、スキップをする勢いでデスクへと向かった。
ーfinー
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