思い込み症候群

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 カレンさんと出逢ったのは数ヶ月前。  まだ僕が社会人一年目の右も左もわからない頃だった。カレンさんは職場の先輩で、僕の世話係を担当してくれていた。  一目見た瞬間から、名前の通りに可憐で美しい人だと思った。彼女が笑うと花が咲いた様に周りは華やかになり、話せば春の川の穏やかなせせらぎの様に気持ちが和らいだ。 「パスタは好き? あ、コーヒーは好きよね、いつも飲んでいるから」  初めてランチに誘われた日、彼女が僕がコーヒーを好きだと知っていてくれたことが、とても嬉しかった。 「影山(かげやま)くんは彼女いるの?」 「え……いえ」 「そーなんだ! じゃあ二人きりで会ったりしてても問題ないね」  運ばれてきたパスタにフォークを絡ませながら、嬉しそうに目をぱっちり開けたり、照れた様に伏せる仕草に、僕はいちいち翻弄される。  もし、僕に彼女がいたとしても、いないと答えてしまいそうなくらいにカレンさんは魅力的な人だった。 「今度は駅前のラーメン屋さんいこ?」 「え!」  食べ終えて職場に戻る間に、次の約束を決めるカレンさん。傾けた首とあどけない笑顔に心臓が飛び跳ねた。 「ラーメン、嫌いとか……じゃないよね?」  下がった眉と潤んだ瞳に吸い込まれそうになって、思い切り首を振った。 「そんなわけないです! ラーメン好きです」 「ふふ、だよね。あたしも好きだよ」 「……え」 「あたしも大好き」  下がる目尻と上がる口角。  瞬間、周りにぶわわっと音を立てて薔薇の花を背に咲き乱したカレンさんに、呆然としてしまっていた。  なんて綺麗なんだ、と思った。  もちろん薔薇の花は僕の妄想だし、好きだと言ったのはラーメンだ。僕じゃ無い、はず。
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