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2、結婚前夜
彼はそっと私の頭を撫でる。
二人並んで座るソファも足元の絨毯も今こうして手の中にあるティーカップだって私には手が出ない位高価な物。すべて彼の物。私も、そして…。
彼が手に入れられないものなんてきっとこの世に存在しないとすら思えるわ。
特にこんな宵には、ね。
「君がユーリンを招くなんてなんだか意外だったよ」
そうでしょうね。と私は笑う。暖かな暖炉の火。まだ秋の初頭とは言え夜が来れば気温は一気に下がってしまう。今ここにはいないあの人はどこかで凍えてはいないかしら。いや、それは心配ないわね。だって、あの人は今あのいけ好かない爺に囲われているんですもの。
「私が招かなくても貴方が招待するでしょう?」
その言葉の中に"あなたが招待したならあの人はきっと来ないわ"なんて気持ちを込めてあげるのは私からあの人を盗った貴方への当てつけ。
「それは、そうだね」
彼の胸の中に抱かれてる。緩やかな心臓の音。なんて心地いいのかしら。
幼い子供みたいに眠ってしまいそうだわ。でもね、言わなきゃならないことがあるのよ。普通の夫婦なら宣戦布告の言葉。でも私たちは普通の夫婦じゃない。それはきっとあなたも分かっているわよね。
「ひどいなぁ、旦那様の前で」
肩をすくめる。時々見せる芝居がかった動き。やっぱり学生時代から変わらないわ。
「もちろん、あなたの事も愛しているわ。でもね、それと同じ位にそれ以上に彼の事も愛しているの」
「ははっ、マイシュガーはなんて欲張りなんだ」
「それはあなたもでしょう?ダーリン」
「…君には何もかもお見通しってワケか」
「それぐらい、見てればすぐ分かるわ」
「そんな僕は嫌いかい?」
いいえ?そんなあなただから私はあなたと結婚したのよ。
My darling.
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