陰徳

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─5─  あの一件から、なんの解決策が浮かばないまま、この村に移住して、三か月が経とうとしていた。そんなある日、私宛に、はがきが届いていた。『講習のお知らせ』と書いてあった。その内容はこうだ。 「仙善村での生活には慣れてきた頃でしょうか。今回は、移住してきた皆さまに、必ず受けて頂く講習のご案内です。この講習は、一か月間、月曜から金曜までの五日間、毎日行われます。九月一日の九時から行いますので、村役場横の、研修センターまでお越しください。よろしくお願いいたします。村長・江口恵子」  とうとう、講習が始まるのか。講習があることは健治から聞いていたので驚きは少なかったが、一か月間、毎日あるとは思っていなかった。 『私以外にも、講習を受ける人はいるのだろうか』ふと、疑問に思った。今まで、そんなこと考えたこともなかったが、もし、いるのなら、私と同じようにこの村に不信感を抱いているのかもしれない。  味方は一人でも多い方がいい……。 「ねえ健治、この講習って他の人もいるのかな?」 「うーん、どうだろうな。でもこの間、移住してきた人がいるって聞いたから、一緒に講習受けられるかもな。気になるか?」 「うん。友達欲しいなって思って……」 「そっか。そうだよな。ここに来てから、俺ら以外と交流する機会なかったからな。美月ならきっと、誰とでも仲良くできるよ。友達できるといいな」  講習は、来週から始まる。
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