見たく無かった

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見たく無かった

駅まで戻ろうと思いつつも、ちょっした悪戯心を出した亜香里は何時もなら歩かない道で帰ろうと思いたった。歩いた事の無い道は、新鮮な気分を運んでくれる。 信号付きの横断歩道を渡り、迂回した道をルンルンと歩きながらふと前を見れば数メートル先に道路を横切る男性が目に留まった。 「んっ!あの人は?」 室長(兄)だわ。会社以外の場所で見掛けるのは珍しい。亜香里が定時で会社を後にする時は大体室長は会社に残って居るようだから。普段の室長の退社時間は不明だった。 気づいてしまったので、声を掛けるべきなのか、知らない振りをするべきなのか、暫く逡巡(しゅんじゅん)したが、馴れ馴れしく話し掛けるな、と云われた事を思い出し、社外でも辞めとこうと決めた。 (触らぬ神に祟りなしって昔から言うし…) その時に(ようや)く室長が一人じゃない事に気づいて、思わず足を止めた。室長の陰に隠れててその存在に気づかなかったのだ。 二人は並んで歩いていた。思わず数メートル程の間隔を空けながら足音を忍ばせながら二人を後ろから付けていく。 『え、えっ、嘘でしょう⁈』 暫くはただ並んで歩いていた二人だったが、其れなりに広かった道路が路地に入り狭くなって人気(ひとけ)が少なくなって来ると室長が彼女の腰に手を回して引き寄せた。 これで二人が『特別な仲』だとわかった。スマホを出し咄嗟にシャッター音を消して写真を撮った。二人がこんな仲だとは全く気づかなかったでも何で写真を撮ったのだろう浮気調査してる訳でも無いのに。咄嗟に(撮った)った自分の行動に説明が出来ない。 会社の近くだと人目につくからこの場所なのだと合点が行く。二人は建物に吸い寄せられるように入って行った。 一見するとラブホテルには見えないブテックホテルだ。 (毳毳(けばけば)しかったり派手な装飾は無いもののラブホには違いないし中でする事は一緒だ! (事は無いけれど、何をかは、亜香里でも知っている。話をする訳じゃ無い事くらい、自分だって!)
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