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来たかった場所
私は観光目的で北海道まで来て居た。
札幌から富良野を抜けてから美瑛町を目指しおよそ150キロ車で二時間40分程走ると目的地『青い池』に到着。
(美瑛はアイヌ語のピイエから転訛したもの)
駐車場には道内からの自動車と大型の観光バスが何台も並んでいた。
此処に来た目的は青い池を見る事ただ一択。歩いて行ける観光名所など近くには他に無いのだ。バスや車から其々に降りた人々は、池までの五分程の道をゾロゾロと目指して歩いていた。
此処は今回の観光旅行で亜香里が一番来たかった場所だった。
亜香里は今、池の辺りに一人で佇んでいた。
目の前には夢にまで見た鮮やかな青い色の水が広がっていた。自然の色とは思えずまるで青い絵の具を注いだ様な色であった。写真で見た景色そのままに鮮やかな青だった。白樺の木々の中に青い池が静かに湖面の如く揺蕩う。天候に寄ってその色が左右される青い池。
だからこそ目の前の青い色が貴重なのだ。
亜香里の眼の前に何処までも幻想的な池が広がっていた。この景色をしっかり目に焼き付けようと亜香里は思った。もう此処に来る事は叶わないかも知れないのだから。
1998年に刊行された写真集でカメラマンの白石ケント氏が『青い池』を紹介してから一躍日本中にその存在が知れ渡った。
2012年、アップル社が自身のMacのwallpaperとして白石ケント氏と独占契約し彼の撮った『青い池の写真』を正式採用して一躍世界中に周知される事になった。アップル社から正式に連絡を受ける前に亡くなった親友から信じられない事に『おめでとう』の報せを受けたのだそうだ。不思議な事がある物で有る。その友人は写真家では無かったけれど、二人で勝ち取ったこの功績だったらしい。
採用された後、ご商売にも悪影響する程の失礼で悪質な電話が後を立たずご苦労されたらしい。自分の名前もきちんと名乗らない電話なんて碌でも無いと想像がつく。その内容の殆どが『何でアンタの写真が採用されたのか』と言う酷く失礼な物で商売をしてなくて、一般家庭で有ったなら暴言に怒ったり潔く電話に出なくて済んだのだろうにとお気の毒に想うし彼の心中を察して余りあった。
写真でしか見た事が無かった青い池が今、写真そのままにあって、感激で心が震えた。
美瑛川の澄んだ水に白髭の滝などから流れ出るアルミニウムを多く含んだ地下水が混ざり合い『コロイド』という目に見えない細かい粒子が生成され、太陽光が散乱する事により青さを生み出すのだそうこの色は『美瑛ブルー』と呼ばれる人口の池なのである。
季節に寄って青い池はその表情を様々に変える。
春先は緑がかったブルー。
夏は、一際明るいブルー。
秋は紅葉した木々が水面に反射して落ち葉の色がカラフルに水面を彩る。
冬になると池に水没している唐松や白樺の木々に雪が積もりより幻想的な雰囲気に一変水面に雪が積もると水面のブルーは当然ながら見えない。冬の間数ヶ月間ライトアップされるそうだ。
池周囲の雪が解け出しつつも背景の十勝連峰に雪が残ってる頃合いが一番の見頃と云う人も少なからず居る。(富士山の頂上に残雪が有るのが一番美しいと同じ理屈かも知れない)足場が悪くなる冬季が最も観光客が少なくなるらしいが、好みは人其々である。
季節だけでは無く一日の内でも時間帯に寄って昼間と夕方でも色が変わり様々な表情を見せてくれるのだ。
太陽が高い春から夏に掛けての午前中が、最も鮮やかな青色に見えるらしい。強く光が届く程反射で青く見えるのだろう。池の底は白い岩で出来ており、その影響も多分に有るに違いない。
反対に台風などの大雨直後は致命的で、雨に依る増水に寄り池の水が薄まり、色が薄くなり、綺麗に見えないのだ。何時もその姿を見られる訳では無い所が稀少性が有り、幻想的なのだ。
自然現象なので、こればかりは致し方無いのであろうと。因みに、積雪の有る時期は当然ながら見れないそうだ。
『き、綺麗だわ。これが自然現象とはとても思えないわ』
私は思わず呟いた。
青い池を撮るだけでは飽き足らず来た記念にと池をバックに自撮り写真を何枚か撮って大満足な亜香里であった。
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