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旅行から帰って来て
何とか無事傷心旅行から帰って来た私は、昼休みに社食の隅っこに座って何を考えるでも無くぼんやりしていた。
隅っこのカウンター席の窓から空や浮かんだ雲の動きも何気なく見てるのが好き。頭の中が空っぽになるようで、そんな意味も無い所も癒される
(今日も良いお天気だ)
目の前には日替わり定食が、手付かずにただ置いてあった
どうしてか食べる気持ちが沸かない。
何時もの習慣で頼んでは見たものの食欲もさして無かったのだ。
「隣りいいかな?」
「……どうぞ」
私は訊いて来た相手も確かめずに、そう返事した。
「佐藤さん、どうしたの?」
「えっ、何が?」
「ぼんやりしてるから、何か有ったのかと……」
そう云われて初めて亜香里は隣に座った人をまじまじと見た。
「あぁ、山本さん?」
心配そうに私を見たのは同期の山本鈴香さんだった。私より少し小柄で平均的な身長。
前髪を、眉上できっちり切り揃え黒髪でスタイリッシュなボブヘアが個性的な彼女に似合ってた。サイドの髪の毛がすこし長めになってるのがこのヘアスタイルのポイントになっていた。
「旅行に行ってたから旅疲れかも知れない」
「旅行?何処に行ってたのか訊いても?」
まさかそう親しくもない彼女に態々
『失恋して傷心旅行に行って来た』
なんてとても言えない。聴かされる方だって対応に、きっと困るに違いないから。
「北海道に行って来たの。前から一度行きたかったから」
「そうなの?今の時期の北海道は良かったんじゃない?」
「そうね、ずっと行きたかった場所だから、予想を裏切らず良かったわよ」
「佐藤さん、食べなくて良いの?折角のお味噌汁だって冷めちゃうわよ」
「頼んだけれど、何だか食欲が無くて……」
「仕事も、大変なんでしょ。
だから食欲がないのよ」
「疲れると直ぐ食欲に来ちゃうタイプなの。
でも作ってくれた人に悪いから少しでも食べないとね」
今まで余り話した事が無かったけれど、山本鈴香さんは、私の眼には極普通の常識的な女性に見えた。
「私に話し難いかもと思うけれど、同期だから良かったら話して見てね、色々と。私、貴女と仲良くなりたいな。
佐藤さんて、見た印象と随分違うのね。あ、良い意味でね」
「そうかな?イケイケじゃ無くて予想外でしょ?私ってきっと話し難いのかもね。
山本さん、声掛けてくれて有難う」
「ね、佐藤さん良かったら私の事、鈴香って呼んで。また社食で見掛けたら一緒に食べようね」
「うん有難う。じゃあ私の事も、亜香里って呼んでよ」
彼女は、女子らしくなく食べるのが凄い早いらしく定食をあっという間に完食していた。
「じゃ、私行くわ、仕事が残ってるからまたね」
元気だし、押し付けがましくなく、彼女は颯爽と社食から出て行った。
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