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久し振りの実家
私のアパートから、実家まで一時間と少しの所要時間。
私にとって久し振りの『里帰り』になる。
最寄りの駅から歩き慣れた道を十分ちょっと歩けば、懐かしい我が家が見えて来る。
築十年ちょっとの二階建ての決して豪邸では無い極普通の一戸建てだけれど、母親は掃除ひとつとっても気持ちを込めて大切にしていた家だ。
庭に目を遣れば、低木も私が居た時と変わらないままだった。そう広くもない庭ではあってもきちんと母親の手が隅々まで行き届いていた。
『ピンポーン』
久し振りにインターフォンを押してみた。此処に住んでた頃はインターフォンなんて鳴らさなかったなぁ。お母さんが居るって分かってたから、鍵を持たされてても当然の様に玄関ドアを開けてたっけ!
「はーい」と言いながら、母親がドアを開けてくれた。
「お母さん,ただいま」
「お帰り、亜香里ちゃん」
二人は意味も無く、顔を見合わせてお互いに笑った。
「さぁ、入って。お茶入れるから…」
「お邪魔します」
家に入った途端何だか懐かしい匂いがした。私の今のアパートとは違うその家々が持っている匂い。思わず鼻をスンとした。
私は後ろ向きになり三和土で靴を脱いだ。
当然の様にきちんと靴は揃えて端に寄せた。
(物心ついてからは靴を揃えて脱ぐようにと躾けられた)
リビングに入った私は敢えてソファーに座らず迷わずダイニングテーブルの椅子に座った。
一緒に住んでた時に何時も座っていた私の『定位置』 此処が私の落ち着く場所……
お父さんとお母さんが並んで座り、私はお母さんの前に座って……。
兄が家を出てからは三人でご飯は何時も此処で食べていた。その日あった事を話しながら何でもない事でも細やかな幸せと言うものを感じていたあの頃が懐かしい。
私は無意識にテーブルの上を何度も優しく撫でていた。
時間がゆっくり流れてるのを感じる。
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