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自分で前振りして置きながら亜香里は未だ逡巡していた
何から話すべきか、どう話したら良いのかと気が重かった
娘の心のモヤモヤを知ってか知らずか母親は急かす事なく黙って亜香里が話し出すのを温かい目で見守っていてくれた。
最後まで迷いはあったけれどそれでもやっぱり話すべきだと自分を奮い立たせた。
「お母さん、お兄さんの就職先って知ってる?」
「あぁ、確か化粧品会社でしょう?」
「会社名は…覚えてる?」
「就職したその当時は覚えていたけれど、何て言ったかしら?康夫さんなら判る筈よ」
「驚かないでね、私が就職した会社がお兄さんの会社だったの。然も部署も同じで。私びっくりしたのなんの!」
「え〜っそんな偶然ある?」
「私だって驚いたし、全く偶然なのに。ストーカー扱いされるし散々よ。就活だって何十社も面接受けたのよ、お兄さんの会社と分かって受ける筈無いじゃない」
「康樹さん嫌がってたの?」
「そう、馴れ馴れしく会社で話し掛けるな、妹だとバレない様に態度にも気をつけろって云われちゃって……」
「そ、そこまで云う?どうしてかしら?そんなに秘密にしなくてもねぇ」
「お兄さん自身が嫌がってるんだから仕方無いよ。私は云われた事を黙って受け入れるしか無い物ね」
「貴女がいいならお母さんは何も言わないけれど……、
でも、キツくない?それで」
「会社、辞めたくないから、我慢する。もしも耐えられなくなったら、異動願い出すから大丈夫よお母さん」
「そう」
「お母さん、問題は未だ他にも有るの」
「未だ他にも?」
私は黙って頷いた。
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