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「私……見ちゃったの」
「見ちゃったって…何を?」
「お兄さんが女性とラブホテルに入る処をこの目で、しっかりと見ちゃったの!」
予想外の話に一瞬、驚きを隠せない母だったけれど、
「康樹さんだっていい大人なんだから、恋人の一人くらい居るでしょ。結婚したっておかしくない年齢なんだから」
「うん、私だってそこは理解してる積もりよ。でもね問題はホテルに行った事じゃない」
「其れじゃ何が問題なの?」
「その女性が既婚者だから!しかも子供も居るお母さん!もう問題だらけ問題山積よ!
「ま、まさか?つまり、康樹さんが不倫してるって事なのね、何て事なの!」
「そうよ紛れもない不倫関係なんだから!しかも相手の女性って、私と同じ秘書で、三人共同じ部署なのよ!一体何の罰ゲームかと思ったわよ」
母は青褪めた表情で唇をワナワナと震わせていた。
私の言葉が予想外だったらしく流石に驚きを隠せない様子だったみたいだ。
「ね、驚くでしょ?どうして私がお父さんが居ない時間に態々此処に来たか理解してくれた?」
母親は、言葉に出さずに素直に何度も頷いていた。
「お父さんに話すかどうかはお母さんに任せるわ。私の口からはお父さんに言わないで置く。それで良いよねお母さん」
「えぇ、良いわ。あの人は、浮気とか不倫とか曲がった事が大嫌いだから、きっと息子の不倫も許せないと思うの」
「お兄さんは私に見られた事は知らないの。私からはお兄さんには言わない積もりよ。だって話し掛けちゃ駄目なんだから。他人の振り一択よ」
「何れは康夫さんにも言わなくてはいけないかも知れ無いけれど、言い方に気をつけないとね。今日は貴女も居るし空気が暗くならない様に言わないで置くわ、貴女もその積もりでいてね。今直ぐは言わないにしても後で何で言わなかったと責められるだろうから折を見て言わないとね、間違ったことが許せないだろうし気が重いわ」
私は首肯した。そして少しだけ母親に微笑んだ。
「成さぬ仲の私は注意は出来ないわ相手は大人だし。今直ぐはあの人に云わないにしても後で分かった時絶対叱られるに決まってる。もし息子の不貞を知ったらあの人は息子を家に呼びつけるに決まってる、烈火の如く怒るに決まってるわ」
そう言って、母は重い溜め息を吐いた。
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