13人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は死んでしまうが、リョウタは違う。
たくさん勉強して。
たくさん働いて。
家族を築き、幸せになりたい。
リョウタの口から出るのは、俺が心の奥底で望んでいた些細な幸せ。
道を踏み外した俺には、もう味わう事が出来ない幸せだが、リョウタの中で俺の血が生き続けるのだから、俺が体験しているのと同じだ。
今まで他人の幸せなど願う事はなかったが、自分の分身である少年の未来が、光溢れるものであることを祈った。
少し前、全てを終わらせるためにたくさんの他人を犠牲にした俺は、リョウタと出会って変わった。
与える事の喜びを知った。
感謝される喜びを知った。
無意味だった人生に意味を見出した。
全てをリョウタに託し、俺はただ死刑執行の日を待った。
しかし、リョウタの身体に限界が来る方が早かった。
◇◆◇
リョウタの体調が急変し、緊急手術が必要となった。
俺はドナーとして、共に手術を受ける事になった。
「大丈夫だ、リョウタ。俺の血ならいくらでもやる。お前の手術は、絶対に成功する」
隣で苦しそうに息を吐くリョウタに、俺は声をかけた。
最初のコメントを投稿しよう!