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一ページと二ページはごく普通の夏休みの日記だったが、三ページ目で裏原くんやホームレス少年の話題が出てきて僕は驚いた。
だってホームレス少年とは――僕自身のことだから。
裏原くんは七年前、僕の姿を目撃している。路地裏のゴミ捨て場で、段ボールの中に入って寝ていたところを彼に見られた。瑠人が海で溺死し、僕が彼に入れ替わって瑠人として登校するようになったものの、瑠人の記憶がない僕は弱い者いじめ常習犯の裏原くんにとって恰好の餌食だった。
「記憶喪失だって? 嘘だろ? 実はお前、マジでホームレス少年なんじゃね?」
彼はいつも僕をホームレス少年だと言って嘲笑した。それが図星だったからこそ、僕は彼のことが大嫌いだった。
僕の秘密を知っている彼の口を、なんとか閉じさせなければと思っていた。
そしてある日、裏原くんは僕に言った。小学校の学芸会で浦島太郎を演じた僕に、最低最悪なことを言ってきたんだ。
「お前すげー下手くそだったな。やっぱ記憶喪失のホームレスじゃ無理だよ。せめて本物の瑠人だったら、もう少しまともな演技ができたと思うけど」
演技が下手だったのは僕も自覚していたから仕方ないけど、僕は彼を許せなかった。
冗談でも、僕を偽物扱いする彼がどうしても許せなかった。
確かに僕は偽物だけど、それが周囲に知られたら僕がせっかく手に入れた平穏な生活を失うことになる。家族に捨てられたら、またホームレスに戻ることになる。
だからその日、僕は裏原くんを初めて殴った。僕は手加減することを忘れてしまい、彼を骨折させてしまった。そして彼は引き籠りになり転校していった。
曽山瑠人の絵日記に、僕はやや焦りを感じ始めた。
僕と瑠人が出会ったのもちょうど夏休みの時だ。眩しい太陽に照らされた猛暑の日。その日の出来事がここに記録されている可能性がある。もし記録されているとしたら……。
次のページを開くと、僕の恐れは現実となった――。
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