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僕の心臓は凄い速さで脈打っていた。
自分でもわかるくらい僕の胸の中でドキドキと振動している。こんなもの見るんじゃなかった。でも見てしまった。もう遅い。
絵日記のイラストには僕の姿が描かれていた。所々汚れている白いロングTシャツを着て、髪の毛はボサボサで、靴は履いていない。
七年前――僕が洛奈に拾われこの家に連れてこられた時、母さんは僕の薄汚い姿を見ている。絵日記に描かれている服装とまったく同じ。ということはつまり……。
「母さんは知ってたの? ……僕が、偽物だってこと」
あり得ない、あり得ない。だって母さんは僕のことをずっと我が子のように育ててくれた。僕を大切にしてくれた。僕を瑠人って呼んでくれた。
僕は混乱していた。認めたくなかった。
でも思い返せば不自然なこともある。寝室の家族写真や曽山瑠人の写真がずっと更新されていないこと。瑠人の絵日記を「宝物」にしていたこと。
知ってたんだ。母さんは僕が偽物だって知っていたんだ。だから瑠人の絵日記は本人が書いた大切な「宝物」なんだ。なのに母さんは僕を育て、愛してくれた……。
「……母さん」
なんで。どうして。
我が子でないと知りながらも、我が子のことが忘れられず、身代わりすらも愛してしまうのだろうか。母親とはそういうものなんだろうか。昔読んだ戦争漫画で、戦争で亡くなった息子そっくりの子に出会い、自身の息子として大事に育てた母親がいたけど。
母さんも僕をもう一人の息子として受け入れ、愛情を注いでくれたのか……。
瑠人の日記はその後も続いていた。八月五日、自由研究を開始。八月七日、今日は夏祭り。八月十日、自由研究の材料を集める。八月十四日、ペットボトルロケットを作成。
ドッペルゲンガーという単語自体は出てこなかったが、彼の日記は僕に出会ってから十三日後、八月十七日が最後の日記となった。
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