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2話 ホームレス少女
時間は昨日の夜に遡る――。
星が輝き出した夕刻の空の下で、俺は一人寂しく児童養護施設へと向かっていた。
俺の名前は砂乃蓮(さのれん)。元ヤンの高校一年生。中二の時に親が離婚して、転校して、しばらくは親父と暮らしていたけど中三の時に親父と離れ、施設で暮らすようになった。
今親父が何をしているのかは知らないが、どうせ日雇いのバイトでもしながら毎日パチンコ三昧だろうな。それでも俺の親だし、離れて暮らして寂しくないといえば嘘になるが、もう親父に会うことはないだろう。
親父が荒れてて金もなくて年齢偽ってバイトしていた中二の頃と比べたら、今は天国みたいな生活を送っている。飯は寮が出してくれるし、バイトの金は自由に使えるし、誰にも殴られないし。高校生にもなれたし。
中卒で定職にもつかない親父みたいなクズ人間にならないようこれからはちゃんと勉強して、高校を卒業したら新卒で雇ってくれる町工場などに就職しようかなと思っている。
もう俺は大丈夫。もうあの頃の自分には戻らない。
養護施設のベッドに横になりながら、俺はぼんやりと過去の自分を振り返り、今後のことを考えていた。
俺がまともになれたのは曽山くんと倉本さんのおかげだ。中二の時に二人が俺を救ってくれなかったら今頃俺は中卒で働いて親父に殴られる毎日を送っていただろう。本当に二人には感謝している。なのに俺は……。
脳裏に浮かんだのは曽山くんだった。彼は今どんな顔をしているだろう?
「俺が持ってったことに気づいてなければいいけど……」
気づかれてなければ、明日にでも彼の家に遊びに行ってこっそり元の場所に戻したい。
今日は久々に曽山くんの家で遊んだ。彼の部屋で俺一人になった時、俺は軽い気持ちでエロ本がないか探してみた。イケメンでクールでカッコいい曽山くんだって男だ。俺の中では完璧な曽山くんだが、彼の変態な部分を暴いてやろうと馬鹿みたいなことを考えてしまった俺がいけなかった。
友人として俺は最低最悪のクソ野郎だ。一度地獄に落ちたほうがいい。
俺は曽山くんの部屋で、ベッドの下から見つけてしまった。
――彼の絵日記を。
そして俺はあろうことか、ベッドの下に戻すタイミングがなくて自分の鞄に隠してしまった。
彼が部屋に戻って来た時、俺はすぐにその場で謝って返すことができなかった。絵日記を読んでしまった俺にはどうしても無理だった。曽山くんにとってあの絵日記は、多分ごく普通の小学生の可愛い絵日記ではない。
絵日記に書かれていた、彼そっくりのホームレス少年のこと。
所々汚れた白い服を着ている少年のイラスト。
その少年に出会ってから十三日後、絵日記はなぜか夏休みの途中で終わっている。
これはどういうことか。曽山くんの妄想日記なのか? それとも……。
「ああっ、くそっ」
ある可能性が頭をよぎる。こんなのあり得ないってわかっているのに、考えてしまう。
なぜなら俺は三か月前、白い服の『ホームレス少女』に出会っているから。
身寄りもなく、家もなく、路上にいた一人の少女。
「……シロ、お前は」
本当に人間なのか?
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