サイダーと恋模様

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 その日はたまたま、クラスメイトのカナちゃんと駅で会って一緒に学校へ行くことになった。  電車に乗り込むと、カナちゃんが「そういえばさ」と口を開いた。 「ねぇ、聞いた? ニッシーのうわさ」 「なにが?」  ニッシーとは西崎先生のあだ名で、顧問をしているサッカー部の部員がつけたものらしかった。 「彼女いるんだって」  途端に目の前が真っ暗になった。  見上げるほど大きくて高いシャッターが、目の前に降りたような感じだった。 西崎先生に、彼女がいる。 「大学時代からずっと付き合ってるらしいよ、手ぇ繋いで買い物してるところを間宮先輩がたまたま見たんだって」 「……そうなんだ」 「昨日あっちゃんが急に早退したのって、やっぱそれ聞いたからなのかな」  カナちゃんが携帯をいじりながら、そんなことを言う。  あっちゃんは、確かに先生のことが好きだとクラスで公言していた。  卒業式の日に絶対にニッシーに告白する、と教室の片隅で女子グループに宣言しているのを聞いたことがある。  彼女は色白で華奢なうえ、ぱっちりとした大きな瞳が印象的な華やかな顔立ちをしていた。  怖気付く私の前を颯爽と歩き、嫌味な男子達に「今の子は非処女」と揶揄(からか)われていた、あの子だ。  私だって、休みたいけど。  知られたくない、この気持ちに誰も触れてほしくない。 「私、男の人って嫌い」  やっとの思いで紡ぎ出した私の言葉を聞いて、カナちゃんは携帯から視線を外してこちらを見る。 「えっ、なになに、それってもしかして女の子が好きってやつ?」
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