サイダーと恋模様

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 自販機の脇には、あの柄の悪い男子生徒達が集まって、また通り掛かりの生徒達を揶揄(からか)っている。  私は真っ直ぐ自販機の元へ行くと、ポケットから財布を取り出して小銭を入れた。 「処女っしょ」 「お前、マジでえっぐ」  金髪に染めたピアス跡のある男の子がこちらを見ながら含み笑いをする。  ガタンと音を立てて落ちてきた缶を拾い上げると、私は彼等の方を見ながら、それを激しく上下に振った。 「なあ、おい、見ろよ」 「俺のも扱いてほしいわぁ」  ピアス跡の男子がズボンの前で拳を握った手を上下に動かす仕草をすると、周りが面白がって(はや)し立てる。  私は彼の前にぐっと踏み出すと、彼の顔の前でプルタブを起こした。  狭い缶の中で弾けた炭酸が、嫌味を言ってきた男子の顔に直撃する。  前髪までぐっしょりと濡れた彼は、袖口で顔を拭った。 「あんたに私の何が分かるの」  彼は私の表情を見て、呆気に取られたような顔をしていた。 「ご……ごめん」  彼はつい思わず、という調子で私の顔を見ながら謝罪の言葉を口にした。  その胸元にまだ半分くらい中身が残っている缶を押し付ける。  戸惑いながら彼の手がそれを受け取るのを見届けると、私は来た廊下を引き返した。  スカートには飛び散った炭酸飲料がつくった染みができていて、スカートが揺れる度に微かにサイダーの香りがした。
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