サイダーと恋模様

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「おはよう」  体育準備室に鍵を取りに行こうと、階段を登っているとき不意に声がした。  顔を上げると、若い男の人がちょうど階段を降りて来たところだった。  無造作な短髪、目鼻立ちがはっきりとした整った顔立ちだった。  背広を着てネクタイを締めているが、広い肩幅がかえって目立ち、その出で立ちは何だかアンバランスに見えた。 「おはようございます」  戸惑いがちに挨拶を返す私の顔を見て、彼は反射的に微笑んだ。  階段を降りて行く広い背中をぼんやりと眺めていたが、私はようやく目的を思い出して階段を登り始める。  短い廊下の奥にある体育準備室を覗くと、体育教師の池田先生がこちらを見た。 「おう、佐藤か」 「体育倉庫の鍵、借りに来ました」  先生は自分が座っているデスクの引き出しを引いて、鍵を取り出すと私の方へ差し出した。 「ちゃんと挨拶したか」 「……え、なんですか」 「そこの階段ですれ違っただろ、西崎先生と」  どこかまだぎこちない彼の笑顔を思い返す。  そうか、教育実習生だからあんな野暮ったいスーツを着ていたのか。 「教育実習でうちに来るんだ、来週からお前の学年の担当だぞ」 「そうなんですか」  私は口籠ったような口調で返事をすると、差し出された鍵をぎこちない動作で受け取った。
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