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あんなに楽しみにしていた体育の授業が、ほんの少し憂鬱になった。
でも、先生の顔をみると「それでも、やっぱり好きだ」と思えてしまう自分自身に嫌気がさしていた。
「ごめん、大丈夫?」
授業中にバレーボールのアンダーキャッチを練習をしていたときだった。
ペアになったカナちゃんが放ったボールの当たりどころが悪く、私の手は赤く腫れてジンジンと痛んだ。
異変に気付いた西崎先生が咥えていた白いホイッスルを口元から離すと、早足にこちらへ寄って来る。
「どうした、大丈夫か」
咄嗟に引っ込めようとした私の腕を、先生がしっかりと掴んだ。
「腫れてきてるな……保健室に連れて行くから、みんな各自で練習続けてて」
先生が私の顔を覗き込みながら、心配そうに「歩けそうか?」と尋ねた。
「足は怪我してないんだから普通に歩けるっしょ、ニッシーもしかして天然?」
背後にいた女子グループが高らかに笑い出す。
「うるさいなぁ。ちゃんと練習しとけよ」
「はぁい」
大きな手に軽く背中を押されて、私はのろのろと歩き出す。
授業中だから当たり前だけど、廊下はしんと静まり返っていて、窓からさす日差しが先生の髪を淡く縁取っていた。
まるで、この世に私と西崎先生の二人きりみたいだった。
保健室がたった一つ下の階にある事を、これ程までに恨んだ事はない。
ドアノブに掛けられている"本日出張中。御用のある方は職員室まで"と書かれたプレートをひっくり返して、西崎先生は保健室へと入って行く。
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