サイダーと恋模様

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 この日の為に新しくおろしたマノロブラニクの靴がきつくて、踵に靴擦れが出来ているのが目で見なくとも分かった。  今日は彼氏との記念日で、仕事終わりに待ち合わせをして食事をする約束をしていた。  ひとつ溜息をついて、私は立ち止まりガードレールに手を置く。  恐る恐る左の踵を見ると、案の定、傷口から血が滲んでストッキングを汚していた。  目の前にある横断歩道の信号の音に紛れるように小さく舌打ちをする。  私は髪を掻き上げながら顔を上げ、肩からずり落ちた小振りなショルダーバッグを持ち直そうとした。  その時だった。  信号待ちをする白い乗用車の運転席に、見覚えのある人の姿を見つけた。  高校時代に体育の授業の教育実習に来ていた、西崎先生だ。  助手席にロングヘアの女の人を乗せていたが、運転席にいる先生と何やら楽しげに話しているせいでこちらからその顔は見えなかった。  どんな声、してたっけ。  そんなことを考えるが、昔のこと過ぎて到底思い出せそうもない。  ただ弾けるように思い出したのは、あのサイダーの匂い。  私は、ずっと西崎先生のことが好きだった。
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