2人が本棚に入れています
本棚に追加
僕らはいつも、何も話さないで良いくらいにお互いのことがわかっていた。
どこへ行くのも一緒で、近所でも評判の仲の良さで、いつも手を繋いでいた。
僕は恵麻のことが大好きで、恵麻も僕のことが大好きだっただろう。
この世界で一番好きで、恵麻が怪我をすると僕まで痛くて、僕に辛いことがあると恵麻も泣く。それが僕らだった。
なのに、変わってしまったのはいつだったのだろう。
恵麻に好きな人ができた頃だろうか。
僕が一番と言った口で「あの人、かっこいいよね」と恥ずかしそうに言った時だろうか。
初めてできた恋人を僕の前に連れてきて「仲良くしてね」と笑ったときだろうか。
誰より先に絵馬は「結婚しようと思って」と僕に打ち明けてくれた。
結婚すればもう、僕に一番に相談してくれることなどなくなるのだろう。
それまではいくら恋人ができようと別れるたびに「私のことわかってくれるのは颯真だけ」と言ってくれていたけど、そんなこともないのだ。ない方がいい。幸せな結婚生活を祈るべきだ。恵麻のためにはそれが一番いい。
たとえ今この瞬間も、恵麻を一番愛してるのは僕なのだから、結婚なんてやめてくれと叫びたくても、そんなことは言ってはならない。
「颯真、どうかな」
ウエディングドレスに身を包んだ恵麻が僕に言う。新郎に聞いたら? なんて意地悪は言わない。
「うん、綺麗だね」
くしゃ、と恵麻が僕の大好きな笑顔を見せてくれる。
誰よりこの顔を見てきた。恵麻を笑わせるのはいつだって僕が一番だった。
でも今日からは違う。それがとても悲しく、寂しい。だから、こう言っても、許されるかな。
「恵麻、好きだよ」
僕の言葉に恵麻は、ぽかんとして僕を見つめてくる。化粧をしていつもより大人っぽく綺麗になっているのに、そんなの消してしまうくらい子どもっぽい顔が可愛くて笑ってしまう。
「どうしたの、急に改まって。なんだか、そんなにはっきり言われると恥ずかしいね」
そう言いながら恵麻が僕の顔に触れてくる。
親よりもよく親しんでした恵麻の体温が心地よい。こんな風に僕以外の男に触れるのかと思うと恨めしい気もしたけど、今はそれより触れてくれることが嬉しかった。
「私も大好きだよ、颯真」
さっきの僕の言葉が一世一代の告白とも知らないで、恵麻はいつも通りに言う。
知らないままでいい。僕がいつから君に恋していたかなんて、恵麻は一生知らないでいい。
「大事な大事な私の弟」
その言葉に目を閉じ、そして目を開け、一緒にこの世に生まれた姉の姿を目に写す。
「しあわせになってね」
どうか幸せになってほしい。それが僕と幸せになる道でなくとも、僕の思いが一生報われなくてもいいから、どうか。
僕の気持ちなんてもう一生わからないままでいいから、どうか幸せに。そう願いながら、僕は最愛の姉の旅立ちを祝福した。
最初のコメントを投稿しよう!