最後のカオリ

5/9
前へ
/9ページ
次へ
 彼は部屋の隅にあるワインセラーから一本取り、グラスも持つと、ソファーに座る。 「今日は、これでいこう」  そのワインをグラスの(なか)ほどまで注いだ。  側のスイッチを入れ、一口飲む。  すると、彼が居住する階のみが電動で動き始め、部屋の向きを変えていく。  もう既に雨は止み、残照に照らされた大都会の頭上には、見事な虹が出現していた。 「おおー‥‥。またと無い絶景だ‥‥。神よ、サンキュー」  彼はコンポのスイッチも入れる。  ドビッシーの名曲が流れる中‥‥  ‥‥にわかに、風花のような雪が舞い始めた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加