1 100人目

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1 100人目

「おめでとうございます、お客様は入店100人目です」 「……は?」  土曜の昼下がり、俺は失恋して落ち込んでいたところで、何気なく目についた携帯ショップにふらりと入ると、いきなりクラッカーを鳴らされて思考が停止した。 「さあさ、こちらへ。お渡ししたいものがございますので」 「えっ、ちょっとまっ、おわっ」  強引な店員に背中をぐいぐいと押され、席に座らされると、目の前に黒光りしていて金の文字で「祝」と書かれた、まるで昔話に出そうな玉手箱のような箱を置かれる。 「あの、これは?」  流石の俺も徐々に状況を理解しつつあったが、説明を求めて店員を見る。 「本日、当店は開店キャンペーンをやっておりまして、こちらは入店100人目のお客様にお渡しするように言われている物です」 「中身は何ですか?」 「永久無料のスマートフォンでございます」 「は?えいきゅ……」  流石にそれは怪しくないか、という俺の疑問は店員のにこやかな笑顔にはねのけられ、あれよあれよという間に2台目のスマホを手に入れた。  しかも、無料というのは本当のようで、契約書の類は一切ない。 「俺、別に2台目のスマホなんていらな……」  箱を押し返そうとすれば、黒縁眼鏡を光らせた店員に、「お客様、お客様」と内緒話をするように手招きされる。 「そのスマートフォンはただのスマートフォンじゃありません」 「それは何……」 「詳細は私どもも存じておりませんが、社長がそうおっしゃっておりました。さあさ、家に帰ってご自分の目でお確かめ下さい」
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