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小幅
「では、皇帝陛下の元へ行ってくるよ」
礼装を着た彼は、今日も宮廷へ出掛けようとしていた。
「奥様、旦那様がお出掛けなさると」
「ヨーゼフ……」
「エリーゼ、どうしたんだ? そんな顔をして。美しい顔が台無しだ」
「また、宮廷へ? 最近、お忙しゅうのですね」
「仕方がないんだよ。昨年に父上が亡くなり、爵位も継いだり、宮廷での仕事も増えてしまったんだ」
「さようでございますの……」
「――君はもう母親だ。大事な世継ぎを育てておくれ」
ふと、足元でドレスの裾を引っ張る息子を見つめた。
「そうですね、殿下。行ってらっしゃいませ」
「ああ、早朝には帰ってくるよ」
そう告げ、彼は御者達と一緒に邸を出って行った。
結婚して早3年、昔はあれほど仲が良かったというのに、最近はまるで小幅が違うかのよう。いつも一歩先を歩いているかのようで、心に冷たい風が吹いている……。
「お母様、戻りましょう? お部屋に」
優しい声で呼びかけられ、思わず我に返る。
「そうね、そうしましょうか。ヴェリ」
息子の手を取り、階段を上がろうとすると侍女に呼び止められた。
「奥様、ウィーンからお手紙が届いております」
――ウィーンから?
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