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五重奏
「ウィーン……私の故郷から?」
「はい。奥様の御両親からと、シャロンブルン大臣から」
そう告げられ手渡されたのは、上等な封筒には実家の紋章と故郷の紋章が彫られていた。
「ありがとう。ごめんなさいね、ヴェリ。ばあやと絵本を読んで待ってくれる? 母様、この手紙を読まなければならないの」
「うん、じゃああとでそとに行こうね?」
「ええ。ごめんなさい」
駆け足で階段を駆け上り、部屋の扉を開けた。
暖かい陽差しが差し掛かる長椅子に腰を掛け、封筒を開けた。
敬愛するマリア・エリーザベト公女殿下へ。
春風の候、公女殿下におかれましては益々のご清栄をお喜び申し上げます。
今回、筆を執りましたのはある方の御依頼を受けまして、公女殿下に『五重奏城』のことについて知りたいと言われたからでございます。
憶えていらっしゃいますでしょうか?
五重奏城のことを。
かつて、公女殿下がお気に召していた場所でございます。
風景画まで描かれ、未だ宮殿に飾られており、皇帝陛下はそれはお気に召しております。
どうか、不躾でございますがどうか筆をお取りになってくださることを願います。
外交大臣シャロンブルン
「シャロンブルン伯爵なんて、いつぶりかしら。懐かしいわ、ウィーンだなんて」
華麗な街並みで、音楽と芸術で溢れるあのウィーン。その中でも宮殿は眩いほど美しくて、宮廷の貴族も優しい方ばかりの自慢の故郷。
「五重奏城……何かあったのかしら。滅多に筆を執らないシャロンブルン伯爵が手紙を送るなんて」
急いで筆を執り、返事を書き始めた。
そのときは『すぐに返事を返さなければ』その気持ちが強く、両親からの手紙は長椅子に置いたままであった。
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