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「マリー、旅行へ行こう。仕事が一旦、片付いたのだよ」  それは突然、告げられたことだった。 「君にはいつも寂しい思いをさせてしまった。ヴェリにも、サーシャにも。久しぶりに家族水入らずで、出掛けるのも悪くないと思わないか?」  そう言い終え、微笑んだ殿下の表情は昔、恋に落ちたときの表情だった。絵に描いたかのような美しい顔を、くしゃっとさせた顔に魅かれたのが私だった。 「――良い案でございますね。いつ頃にしましょうか」 「日程は決めてある。明後日に、出発するぞ」 「はい。息子達にも伝えておきますわ」  夕餉が終わり、自室に戻ると1つのメモが視界に入った。 「あら……何かしら」  その横にはシャロンブルン伯爵から送られてきた手紙。  その中に紛れ込んでいたものだろうか?  そう思い、私はメモを開いた。  親愛なるヨーゼフ殿下へ。  今宵の舞踏会、ヨーゼフ殿下もご出席なさるのですか?  もし、ご出席なさるのならば私は心の底から嬉しゅうございます。  庭園の花々も鮮やかに色づき始めました。良かったらぜひ、我が邸にもいらしませんか?  お待ちしております。  マリア・エリーザベト・フォン・ヴァルトビューネ 「これ、昔私が殿下へ書いたものだわ。でも、何故この中に……」  これは果たして偶然か、それとも誰かがわざと紛れ込ませたのか、その真相は確かではなかった。
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