狂愛Ⅱ《綾side》

2/9
前へ
/43ページ
次へ
次の日の昼。 愁弥が家に帰ってきたという連絡を洸弍からうけて、俺は急いで愁弥の部屋に向かった。 愁弥は仰向けになってベッドに横になっていた。 「よぉ愁弥。早い帰りだな」 「綾…」 一瞬俺を見て目をそらす。 だから近付いてやった。 「昨日お前どこにいた?何で連絡返してこねぇんだよ」 「どこにいたって関係ないだろう」 目を合わせて言った言葉がこれだ。 愁弥は少し怒っているように見えた。 怒って当然なんだけどな。 「映画を忘れてたことなら謝る。けどな、聞いて欲しいことがあるんだ」 だからもう、全て話そうと思った。 お前を夏休みに海外旅行に連れてくつもりなんだって。 昨日はパスポートを作ってたって。 全て話そうと思った。 瞬間、 「話は俺が先だ」 愁弥がベッドから起き上がった。 真剣な眼差しで俺を見る。 数秒の沈黙。 「この関係を終わりにしよう」 言ってる意味が分からなかった。 この関係を辞める? 俺と終わりにしたいってことか? 「なんだよ…急に…。どうしてだよ?愁弥!」 俺は驚き、愁弥の肩を掴んで問いかけた。 目を背けて黙り込んだ愁弥が、そのまま俺の顔を見ずに言う。 「好きな人が出来たんだ」 「え?」 思わず腕の力が抜けた。 言葉と同時に愁弥の首筋に、キスマークがついていたから。 俺は愁弥を抱いても体にしかキスマークをつけない。 あぁ、 「好きな人が出来たらこの関係を辞めるのがルールだろう」 そいつに抱かれたのか―… 優しいお前は、幼なじみの俺の為に嫌な顔見せず抱かれてくれてたのか? 少しでも、俺のことを好きだから抱かれてたのかと思ってた。 そうか。 そうだよな。 真面目なお前に遊び人の俺。 お前が俺を好きになる可能性なんてなかったんだな。 一人で浮かれてバカみてぇ。 「…分かったよ」 俺はそう言って愁弥の部屋から出ていった。 炯に言われた言葉が頭を駆け巡った。 『自分優先して大切なもの無くすなよ』 もう大切なものは無くなった。 どうあがいても、俺には愁弥は手に入らない。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加