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ーー今よりずっと昔。突如、大量の化け物が現れるという事件が起きた。
結論から言うと、それは化け物ではなかった。異世界の種族。オークや獣人、ドワーフと名のつくそれは、なぜか列島を中心にその姿を現した。
あとでわかったことだが、そうなった理由は転移が起きた時の座標にあるらしい……というのは、ひとまずどうでもいいとして。その日を境に国民の暮らしは、まるで水に墨汁を垂らしたように、大きくその様相を変えた。
いきなりこっちの世界に飛ばされ、困惑する異世界の住人達。
最初は露骨に敵意を示していた種族もあったが、徐々にそれも沈静化していった。もうこっちの世界で生きるしかない、というある種の気づきもあったのだろう。
そうして、次に行われたのは彼らの処遇。違う世界から来た彼らをどう扱えばいいのかーーその審議は苦難をきわめたが結果、彼らはそれぞれ個別の種族として身分を得ることになった。
当初は反発もあったが、やがてそれは世の中の常識として受け入れられていった。慣れとはおそろしい、とはどこかの誰かが呟いた感想である。
そして現在。高校生である稲葉潤は、そんな時代に疑問を抱くこともなく……カバン一つ持たされた状態で、実家を追い出されていた。
「……暑い」
朝の住宅路。照りつける太陽に肌を焼かれながら、熱気のこもるコンクリートの上をひたすら歩く。
汗に濡れた額に髪がはりつき、こうなった理不尽さをより一層倍増させる。だが、すぐに考えをあらためた。
そう。こうなったのは、間違いなく自分のせいなのだと。
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