ハイスぺ男子の憂鬱

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 上司のジェロームと海外出張の打ち合わせを終えた僕は、深夜タクシーで帰宅した。仕事で海外に行くのは慣れているが、最近使っていない英語が会議で通用するか心配だった。せめてフランス語だったら良かったのに。 「まあ、何とかなるだろう」  そう呟いてマンションのドアを開けて電気をつけると、部屋に違和感を覚えた。  何だろう? 別に机や棚の上の物も朝出かけたときのままだし……?  気のせいかな? と思って、ニュースをチェックしようとテレビのリモコンに手を伸ばす。でも、いつものローテーブルの上にリモコンが見当たらない。  違和感はこれだったのか。ええっと、ソファの上にもないし……。  そして、僕は重大なことに気づいた。  うわっ! テレビないじゃん!  リビングに置かれていた72インチの4Kテレビがテレビ台ごとなくなっている。  ええええっ!? どういうこと!?  他には特に部屋が荒らされた様子もない。テレビだけが忽然となくなっていた。このマンションはオートロックで、当然部屋にもカギがかかっている。泥棒だとしたら、ルパン並の凄腕だ。  ……いや、泥棒しか考えられないけど。だって泥棒じゃないとしたら、何? 宇宙人? それとも……!? まさか僕の力がついに覚醒して奴らを呼び寄せてしまったのか……って待て待て! 何、動揺して中学生みたいなこと考えてるんだ!  僕はソファに崩れ落ちると、頭を抱え込んだ。今夜、推しの地下アイドルが初めて地上波に出演する番組があって一週間前から楽しみにしていたのだ。  もちろん、僕が推し活なんてしていることは周囲には絶対に秘密だ。もしジェロームが知ったら、長期休暇を取るように勧められるか、最悪心療内科を紹介される。
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