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従兄弟の楓介は鯉を殺した。
池に泳ぐ紅白と黒の内、紅白の方を。
僕は息絶えて地面に横たわる紅白を見た。それから楓介の方を見遣った。
「絶対に言うなよ。もし、言ったらー……」
楓介の足元に虫取り網が転がっている。
本来の使われ方をされなかったそれは水に濡れて、藻が纏わりついていた。
この事を亜希は知らない。
鳥居の向こう側は祭りの準備で騒がしい。
◆
「え、一馬行かないの?」
登校日、亜希はただでさえ大きな目を見開いて、尋ねた。
声に失望が滲んでいる。前の席から振り向いた楓介は口を結んで物を言わない。
亜希の反応が気に入らないようだ。
僕は詰め寄る亜希の肩口を掴んで距離を置いた。この状況は楓介にとってあまり面白くはないだろう。
椅子に跨る様にして、身体をこちらへ向ける従兄弟に気を遣って僕は言葉を選んだ。
「行かない訳じゃないよ。ただ、部活の奴らと先に約束してたから」
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