夏祭りの夜に

10/22
前へ
/22ページ
次へ
一瞬自分の事を呼んだのかと思い、硬直してしまった僕の服の裾を掴んで、女の子は同じ単語を繰り返した。 「お兄ちゃん、お兄ちゃんどこ……」 「……僕、ちょっと、案内所に連れて行ってくるよ」 「あ、それなら私も行くよ」 「大丈夫。亜希はここにいて」 そろそろ消える頃合いかと思っていたから、迷子の女の子の出現は都合が良かった。 手を差し出すと、小さな手がきゅっと指を握った。 「お兄ちゃんを係の人に呼んでもらって迎えにきてもらおう。名前は言える?」 「かいと」 「かいとお兄ちゃんだね。君はなんて言うの?」 「ちさと」 「ちさとちゃん、今日はお兄ちゃんと来たの?」 「うん」 「お兄ちゃんとだけ?」 「おばあちゃんも」 「そう。お兄ちゃんとおばあちゃんと一緒に来たんだね」 ちさとちゃんに話しかけながら、歩幅を合わせてゆっくり僕は進む。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加