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一瞬自分の事を呼んだのかと思い、硬直してしまった僕の服の裾を掴んで、女の子は同じ単語を繰り返した。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんどこ……」
「……僕、ちょっと、案内所に連れて行ってくるよ」
「あ、それなら私も行くよ」
「大丈夫。亜希はここにいて」
そろそろ消える頃合いかと思っていたから、迷子の女の子の出現は都合が良かった。
手を差し出すと、小さな手がきゅっと指を握った。
「お兄ちゃんを係の人に呼んでもらって迎えにきてもらおう。名前は言える?」
「かいと」
「かいとお兄ちゃんだね。君はなんて言うの?」
「ちさと」
「ちさとちゃん、今日はお兄ちゃんと来たの?」
「うん」
「お兄ちゃんとだけ?」
「おばあちゃんも」
「そう。お兄ちゃんとおばあちゃんと一緒に来たんだね」
ちさとちゃんに話しかけながら、歩幅を合わせてゆっくり僕は進む。
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