夏祭りの夜に

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この人だかりで迷子になるのはさぞかし不安だったろう。どこを見ても人がいる。そのどれもが知らない顔であれば尚更怖かったはずだ。 僕が自分に合わせてくれる人間だと分かり安堵したのか、ちさとちゃんの表情の強張りが徐々に溶けていく。 案内所には案の上何人かの先客がいた。 僕はちさとちゃんの名前と、どこで見つけたか、年齢、連れの特徴と名前を伝えると、受付の女性に後を任せようとした。 ちさとちゃんは女性に誘導され迷子の子供達の一群へ加えられようとしたけど、子供達のまとう空気に緊張してしまったらしい。 くるりと身を翻し、涙声で僕を呼んだ。 「お兄ちゃん、行かないで」 「……」 大丈夫よ、と宥める女性の言葉を振り切る様に、ちさとちゃんは首を横に振った。 「ご迷惑じゃなければ、一緒に待っていてもいいですか?」 恐縮していた案内所の係の人も最後にはちさとちゃんの態度に根負けして、頷いた。
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