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僕は記憶の扉をひらく。
「ついでになずなも死んでいた」
亜希の声がかすかに震えている。
「一馬?」
「僕と違って、勇気のある優しい子だったから、多分鯉を池に戻そうとしたんだ。けど、出来なかった。楓介がいたから。……なずなが泳げない事は楓介も知ってた」
「……」
「戻ってきた僕に、楓介は笑いかけてきたよ」
(絶対に言うなよ。もし、言ったらー……)
夏の、少し傾きかけた日差し。
地面に転がる濡れた虫取り網。
死んでしまった一匹の鯉。
それから。
あの光景を、記憶から消す事はきっと不可能だ。
絞り出す様に亜希は僕に話しかける。
何か喋っておかないと気がおかしくなりそうだ、という表情をしていた。
「……そんな。い、言えば良かったんだよ。子供同士のキスくらい、どうってことないよ。周りに言いふらされたって冗談だったで済ませればいいし……。ほんの少し、からかわれるくらいのものだよ。なのに、どうして……」
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