28人が本棚に入れています
本棚に追加
メッセージアプリに亜希のお気に入りのスタンプが表示されている。
祭りにはTシャツにチノパンを合わせる事にして、僕はベッドで目を閉じた。
去年のバレンタインデーに亜希からチョコレートをもらった事を思い出す。
伏目がちに、顔を赤らめた亜希は確かに中学の頃からしたら大分女っぽい。
いい訳でもするかのように「沢山作って余ったの」そう言って差し出す箱を、僕は受け取るか迷った。
「楓介は?」
「え?」
「楓介にはやったの?」
亜希がぽかんと口を開ける。
それから何か言葉を飲み込むかのように笑顔を作ると、明るい声音で僕を安心させた。
「もう一馬は優しいなぁ。しょうがない。あげないつもりだったけど、あいつにも友チョコくらいくれてやるか!」
その言葉にほっとした。
僕は楓介の亜希に対する気持ちを知っている。
瞑った瞼の裏に小さな頃の楓介の目が、うつった。
今でも。
忘れる事の出来ない三日月形に細められた目。
最初のコメントを投稿しよう!