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時間通りに鳥居の前にいると向こうから、楓介が、それから続いて亜希が現れた。
「えー、一馬浴衣は?」
「持ってないんだってさ」
僕の代わりに楓介が答える。
亜希は心底残念そうに、口を尖らせてみせた。
「なんだ。言ってくれればお兄ちゃんの貸したのに」
「いいよ。僕は。亜希も楓介も似合ってるよ。浴衣」
編み込んだ髪を指で撫でつけて、亜希が照れくさそうにはにかんだ。
その姿を眩しそうに楓介が見つめる。
3人で談笑しながら、出店を冷やかして回る。
子供みたいに亜希ははしゃいで、人ごみの中、行きたい店を指さしてはこちらを振り返るから危なっかしい。
亜希が笑う度、楓介が嬉し気に冗談を言う。
笑い声は大きくなる。時間が経つにつれ、辺りに人が増えてゆく。
途中で剣道部の仲間とすれ違った。
浴衣姿の亜希を見て、部員の一人が羨ましそうに「デート?」と尋ねる。
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