3年後

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——信幸様とまた会えたらどんなに幸せかと願っていた。 だけど突然、信幸様との結婚の話が出た途端 私は狼狽えてしまった。 信幸様に縁談を申し出て、断られるのが目に見えて分かったからだ。 二度と会えることのない相手だと言い聞かせることで 時間をかけて信幸様を諦めようとしていたのに、 再び希望が芽吹き、その上で縁談を断られてしまったら—— それこそ生きていけないくらいの悲しみを感じることだろう。 信幸様が私に関心がないことは分かっているけれど、 はっきり『君とは結婚できない』と言葉にして言われてしまえば 苦しみのあまり、心穏やかに生きることができなくなるかもしれない—— イナはそんな思いから、忠勝に強く反発してしまった。 突然訪れた希望と絶望。 イナは再び涙を落とすと、重い足を引きずって寺の中へ戻っていった。 ——それからひと月後—— イナは、家族ではない人物が 自分に面会に来ていると知らされ、不思議に思いながら門の方へ歩いて行った。 すると開かれた門の前に、三年間ずっと思いを募らせていた相手の姿があるのを目にし、言葉を失った。 「信幸、様……!?」 ——やっとのことで名前を呼んだものの、 そこに立っている懐かしい容姿を前にし、イナは固まってしまった。 「……久しぶりだね、イナ」 信幸も、どこかぎこちない様子で返した。 三年前と変わらず、涼やかな顔立ちと透けるような瞳を持つ信幸が僅かに笑みを見せると、 イナは気を失ってしまいそうになった。 突然の再会に足の震えが止まらず、ガクガクしながらその場にしゃがみ込むと、 信幸はイナの側に歩み寄って来た。 「大丈夫?」 信幸が手を差し出すと、イナは彼の手のひらを見つめながら、恐る恐る尋ねた。 「信幸様が……どうして三河の、このように山奥にある尼寺にいらしたのですか……?」 すると信幸は、イナの手を掴み、彼女を立ち上がらせると イナと正面から向き合って言った。 「君と夫婦になるために来たんだよ」
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