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信幸に手を引かれ、尼の袈裟を着たままの姿で
三年ぶりに寺の門をくぐったイナ。
門の外に出ると、そこには忠勝の姿もあった。
「おお、イナよ——!」
忠勝は、娘との間に隔てるものがない状態での対面に感嘆の声を漏らした。
「とうとう俗世に戻って来てくれるのだな」
「っ、父上……!
これは……これはいったい、どういうことなのですか?」
信幸の隣に立ち、本来ならば嬉しさが込み上げてくるはずであるのに
イナの胸中は混乱が大半を占めていた。
「お前が信幸殿と夫婦になることを望んだからに決まっているではないか!」
忠勝が笑顔で言うと、イナは躊躇いがちに「でも」と言った。
「私は言ったはずです。
信幸様の御心を無視して結婚することなどできない、と——」
すると隣でやり取りを聞いていた信幸が口を開いた。
「イナ。俺は君と結婚できるのであれば、これ以上に喜ばしいことはないと思っているよ」
「え……?」
イナが驚いて目を丸めると、信幸は続けてこうも言った。
「三年前、君を三河に帰した時には
徳川方と戦ったばかりということもあり、本多家との関係は良好ではなかった。
——既にお父上から聞き及んでいるかもしれないけれど、今はそうじゃない。
真田家が仕える秀吉様と、君のお父上が仕える家康殿は
互いの結び付きを強めたいと日々奔走されている。
だから君と俺が夫婦になれば、互いの家も、その主君達も、皆幸せになれるんだ」
「……それは、信幸様にとっても幸せなのですか?」
暫しの沈黙の末、イナが尋ねた。
本多家と真田家が縁者になることが望まれているのは分かっている。
だけど、信幸様の気持ちは?
妹としてしか見られないという私と
夫婦になる、ということに
信幸様は耐えられるのだろうか——?
イナが不安そうに信幸を見つめると、彼は唇の端を少し上げた。
「——もちろん。
俺は真田家の時期当主として、真田家が繁栄するために最良の選択をしたいといつも考えている。
本多家の御息女である君と結婚できるのは、
俺にとって願ってもないことだよ。
……だから、君と夫婦になるのは俺にとっての幸せでもあるんだよ」
信幸が微笑んでみせると、イナはようやく実感が湧いて来た。
信幸と再び会えたこと。
信幸との縁談が組まれたこと。
信幸が、自分と結婚することを幸せだと言ってくれたこと。
「——イナ。君の気持ちも確かめておきたい。
……俺の妻として、真田家に来てくれる?」
信幸が問い掛けると、イナはじわじわと胸の中に温かいものが込み上げ、
いつしか嬉し涙を溢しながら頷いていた。
「はい……。
はい、信幸様……!
私は——信幸様と結婚したいです。
真田家の人間として、一緒に生きていきたいです……!」
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