第一次上田合戦

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——生きるためについた嘘だった。 イナが心臓を早鐘のように鳴らしながら反応を待っていると、 青年は暫く考えた後、こう告げた。 「……ともかく、ここにいては危険だ。 戦の後は、死んだ兵の武器や甲冑を盗んで金にしようとする輩が沸いて来る。 君のような女の子が一人でいると、そういった輩に攫われて、奴隷として売られてしまう危険があるかもしれない」 「っ……!」 イナが顔を真っ青にして震えると、青年は続けた。 「だから——君のことは、うちで庇護するよ」 そう言うと青年は、馬の背にイナを乗せてくれた。 その後に自分も馬に跨ると、「俺の身体に掴まって」と声を掛けてきた。 イナが恐る恐る、青年の胴に両手を回すと 甲冑越しに彼の身体の温度が伝わってきた。 「揺れるから、そのまましっかり掴まっててね」 「……はい」 「怖がることはないよ。 家の人達も、まだ子どもの君のことを悪いようにはしないはずだから」 「……」 「大丈夫。君を真田に連れ帰る以上、俺が責任を持つから」 「……責任、って?」 「君を守るってことだよ」 「……私を……守る……」 その言葉に、そこはかとない安心感を覚えたイナは、 青年の身体に回している腕にぎゅっと力を込めた。 ——青年の実家だという真田家の屋敷に着くと、 彼は自分の父に話をつけてくると言い、 イナを屋敷に入ってすぐの居間に座らせた。 どうしよう……。 さっきの人のお父様が私を見て、 もし私が誰の娘であるかを知っていたら……。 でも——助けてくれたあの人はとても優しそうに見えたし、 あの人のお父様も、もしかしたら優しい人かもしれない。 私を生かしてくれるかもしれない……。 イナはバクバクと高鳴る心臓を抑えつつ、 そわそわと居間を見渡した。 本多家に比べて、質素な部屋の造りをしていたが、 どこか落ち着く雰囲気のその場所に 不思議な思いをしながら座っていると、 居間の戸口からこちらをじっと見つめてくる視線に気がついた。 「ひっ!」 イナが驚いて思わず声を上げると、 戸口にいた人物も驚いたようにびくりと肩を震わせた。 「っ、びっくりしたー! ……おいお前!いきなり叫ぶなよ!」
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