第一次上田合戦

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「え!?」 イナが目を瞬かせると、戸口にいた人物は戸をガラッと開け放ち、 ずんずんと部屋の中に入って来た。 ——その人物は、自分と同じくらいの背格好をした少年だった。 「お前!俺の家で何してるんだ!?」 「へっ?ええと……」 イナはびくびくしながら、少年の顔を見上げた。 すると、快活そうな表情をしているものの 顔立ちは、先ほど助けてくれた青年とどこか似通って見えた。 「……私は……イナと言います。 戦で家を焼かれて……、私より少し歳上の男の人に助けてもらって……ここへ来ました」 「はぁ?助けてもらったって?!」 「っ……う、嘘じゃないです……!」 素性を偽った負い目から、ついそう言うと、少年は 「別に嘘だなんて疑ってないけど!」 と鼻を鳴らして言った。 そして少し置いた後、ぽりぽりと頭を掻いた。 「……どうせ兄上だろうなぁ」 「兄上?」 イナが聞き返すと、少年は 「そっ!兄上!」 と返した。 ——自身を『真田幸村』と名乗るその少年は、 イナのことを助けたのは自分の兄である 『真田信幸』だと告げた。 「兄上は面倒見がいいからさぁ……。 困ってる人がいると放っておけない性分なんだよな。 だからお前みたいな、どこの村の農民かも分からん奴を ほいほい拾って帰ってきちゃうんだろうななー」 「のっ……」 農民じゃない、私は武家の娘だ——と訂正し掛けて、イナは口をつぐんだ。 自分が本多家の——真田家と戦った家の娘だと知られたら、生きて帰れないかもしれない。 ここは、この男の子——幸村殿の勘違いに乗っかっておいた方がいいよね……。 「……幸村殿のお兄様は優しい方ですね。 私のような、唯の農家の娘をご実家に連れて来て下さって……」 イナが返すと、幸村はわしゃわしゃと頭を掻いた。 「お前さー、農民のくせに畏まった喋り方するのな。 よく見たら、着物もちょっと良い奴着てるし」 「の、農家の娘が畏まった話し方をしてはいけませんか……?」 「駄目じゃないけどさあ……」 「けど?」 「上品ぶった喋り方が鼻につくんだよな! 俺より格下の家柄のくせに、分不相応というか! それからお前と俺、同い年くらいなのに『殿』とか付けるしさ! まどろっこしいから『幸村』って呼べ!」 「で、でも——」 「ここにいる間、お前のことはイナって呼ぶから! 俺のことは幸村って呼べ!いいな!?」 「っ!は、はい……!」 幸村の剣幕に圧倒され、イナが涙目でコクコク頷くと、 そこに二人分の足音が近づいて来た。 「待たせてごめんね——おや? 君……泣いてる……?」
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