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御堂はポケットから自分のハンカチを取り出し、口元を拭くようにと渡してくれた。三神峯のハンカチは縛られたせいで皺だらけになってしまったことを考えて差し出してくれたのだろう、本当に面倒見のいい人だ。トイレに人が入ってくる直前まで、彼は背中を優しく擦ってくれていた。
(御堂さんが来てくれて助かったけど、今日は本当についてない……)
朝から中田からは理不尽な言いがかりをつけられるし、新幹線では痴漢に遭うし、会場では襲われるし。ついでに同じ会社の人に見られるし。まだ午前も終わっていないのについてない一日だと落ち込みながら三神峯は御堂の一歩後ろを歩く。後ろから見ても御堂はスラっとした佇まいでとにかくスタイルがいいな、と思っていると、ふと御堂が自動販売機の前で立ち止まった。
「三神峯さん、水でいいですか?」
「えっ、いえ、そんな」
「まだ始まるまで時間ありますし、現場も今なら任せてて大丈夫なんであちらで少し休みましょうか」
御堂はそう言って、断る暇も与えずに自動販売機で買ったペットボトルの水を差し出した。あちらで、と彼が示したのは角のラウンジスペースだ。たしかに展示会が始まるまではまだ時間があるし、せっかくの彼の気遣いを無下にはできない。
「すみません、ありがとうございます」
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