Episode.09

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  *  *  * 「八木先生、三神峯さんのご家族に連絡とれましたか?」 「いや、まだだ。国際電話になっているみたいで連絡がつかない。まあ、カルテを見る限り向こうも医者のようだから仕方ないだろうけど」 「……、そうですか……」  救急科の医局に戻った長町は頭を掻きながら告げてきた救急科の医師――八木(やぎ)の言葉に深くため息を吐いた。急変患者として一時的に救命救急センターに運ばれた三神峯はひと通りの処置を終えても目を覚ますことはなく、先ほどようやく心拍が安定してきたところだ。一刻を争うような事態ではないものの、正直長町は焦っていた。 「長町、勤務先に連絡していいか? 他にも緊急の連絡先が登録されているかもしれないし」 「…………」 「長町?」  数値が著しく悪くなっていること、三神峯の元気がなくなっていること、体中に広がる痣と傷。定期検査に来るたび弱っていく三神峯に、違和感を覚えないはずがなかった。嫌がる三神峯を無理やりにでも入院させていればこんなことにはならなかったかもしれない。いくら病状が進行しやすくなっていたとはいえ、ここ一年の著しい悪化の原因が仕事だということは薄々感じていたのに。湧き上がる後悔は、確実に長町の焦りへと変えていく。 「あ、いえ……それは最終手段にしたいんです。少し、思うところがありまして」 「……それは怪我のことか?」 「……ええ、頭の傷だけではなく、色々と」  八木は何かを察したように長町を一瞥するとすぐに電子カルテに視線を戻し、カルテの画面を持っていたペンの先でくるくると指しながら呟いた。
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