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Episode.01
Phase1
不器用な僕らは不確かさを持ち合わせ、いつまで続くかわからない綱渡りを続けている。観客の前で軽々と細い綱を渡ってみせるピエロがいたとしても、そのお道化た仮面の下でどんな表情をしているか想像することはないだろう。貼りついた仮面が笑っていればきっと周りはそれでいい。いや、周りは無意識でそれを求めている。
――きっとみんなそうやって、胸に抱える痛みを誤魔化しているのかもしれない。
1
「大阪の展示会、ですか?」
共立製薬株式会社――東京・大手町に本社を構える一流有名企業の製薬会社であり、全国だけでなく海外にまで拠点を広げているいわゆる大企業だ。その中でも会社の「顔」ともいえる営業部に所属する御堂和樹は、主に首都圏エリアを担当する営業一課の係長を務めている。歴代最年少で課長補佐にあたる係長に昇格、成績は本社内だけでなく全国的にも毎月トップを譲らないほど優秀で、上層部からかなり高い期待を寄せられている。さらに百八十センチを越える長身に整った顔立ちと面倒見のいい性格となれば、必然的に老若男女問わず人気が高かった。
営業部長である泉崎から渡された二つ折りのパンフレットを眺めながら問いかけた御堂に、泉崎は上機嫌で答えた。
「来場者も大きい医療法人や医療関連の人たちが集まるような大事な展示会だから、ぜひ御堂くんにお願いしたくてね。ここ主催の展示会が今年初めてだからどの部署から誰をメインに出すかって人繰りも難航したんだよ。ちょっと急だし前例がなくて申し訳ないけど」
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