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こみ上げる吐き気に耐えるたび、生理的な涙が頬を濡らす。目の前の男性はそれを興奮していると勘違いしているのか、荒くした息遣いでワイシャツを無理矢理捲り、手を差し込み始めた。さらに両足の間にも足を割り入れられて本当に身動きを取ることができない。冷たい男性の手が素肌に触れるたび、全身がぞわりと粟立った。
(大人しくしてたほうが、早く解放してくれるかな)
そう、半ばあきらめかけたときだった。
「うちの社員に何やってるんだよ」
ふと低い声が静かなトイレに響く。一気にその場が冷え切った雰囲気を感じて視線を移せば、そこにいたのは御堂だった。御堂は素早く男性の手首を握り上げて三神峯から引き離した。その表情は、ひどく冷たい表情だ。
(御堂さん……!?)
「いいか、お前が抵抗したり、これ以上この人に触ったりしたら警察呼ぶからな」
「チっ、痛ってえな。邪魔すんなよ」
御堂は男性の手首を握り上げたまま、もう片方の手で彼の首に提げられている社員証を引っ張った。まじまじと見たあとに、冷たい表情のまま言葉を続ける。
「……ふうん、メディカルネットテクノロジー営業部の袋原さん、ね。名古屋営業所か。ここの営業本部長にはよくお世話になっているし、名古屋の所長とも顔見知りだけど。今度よく話しておかないとね」
「っ、別に、本気じゃないからな。そもそもそいつ、男だし」
声を低くした御堂に凄んだのか、それともその言葉の内容にまずいと思ったのか、男性は強気な言葉を残しつつも逃げるようにトイレを出ていく。その呆気なさに呆れながらも解放された安心感に力が抜けた体は耐え切れず、壁に凭れながらずるずるとその場に屈みこんでしまった。
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