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御堂が差し出したペットボトルを素直に受け取ると、彼は満足そうに柔らかく笑う。空いていたラウンジスペースに促されるまま座り、小さなペットボトルの水に口をつけた。御堂があの場に来てくれなかったら今頃どうなっていただろう。振り切れなかった情けなさと、力では敵わなかった恐怖。落ち着かせるためにも思わず深く吐いたため息に、それまで何も言わずに向かい側に座っていた御堂が心配そうに三神峯を覗き込んだ。
「三神峯さん、大丈夫ですか?」
「あ……、大丈夫です。先ほどはすみませんでした。お恥ずかしい限りです、男のくせにあんな姿を見せてしまって」
「いや、男女関係ないと思いますよ。嫌な思いをしたのは間違いないですし、逆にもっと早く来ていればと後悔してます。あの男、一発殴っておけばよかったとも」
まさかそう言われるとは思わなかった。拍子抜けするような発言をする御堂に何も返せずにいると、彼は言葉を続ける。
「顔色が悪いの、ずっと気になっていたんです。お手洗いに行ったきりなかなか戻ってこなかったので、具合でも悪くしたのかと……」
「……御堂さん」
「すみません、僕ばかり出しゃばってしまって。僕は戻りますが、三神峯さんはもう少し休んでいてくださいね。昨日も夜遅くまで仕事をされていたようですから。……ここは三神峯さんの上司はいませんし、見えないですから」
気の強い垂れ目が柔らかく微笑んで、去り際にぽん、と肩を叩かれた。男性に触られたときはあれほど嫌だったのに、御堂に触れられるのは不思議と嫌ではなかった。
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