偏食王女と専属料理人

10/13
前へ
/13ページ
次へ
 それでも、エレオノーラは不味いと言うことはなかった。 「あなたの野菜料理は、どれもわたくし好みにしてくださっているのは承知しています。だからと言って、すべてを口にするなんて思わないでくださるかしら?」 「ズッカをチーズケーキに仕立ててみました」 「……あなたっていうひとは……」  ズッカも根菜の一種で、そのままでは固いが、熱することでほくほくとして甘みが出てくる。  それくらいの知識はあるが、エレオノーラは口にしたことがなかった。 「それにしても、どうして王女殿下はそこまでして野菜を拒むのですか?」  オレンジ色のチーズケーキの断面を見て、エレオノーラは溜め息を零した。 「子どもの頃は、嫌いではなかったのです」 「と、言いますと?」 「あれは五歳のときでした。出たのです、ペペローネのお化けが」  ニコラがきょとんとした表情になる。 「夜、寝ていたら、緑色に光り輝くペペローネが枕元に立っていてこう言いました。『お前のことを食べてやる』と。それから野菜のことが恐ろしくなってしまって、一切口にするのを止めました」  ぷっ、とニコラが吹き出した。 「う、嘘ではありません!」 「いえ、信じます。とてもかわいらしい御方だと思ったら、その……。すみません。不敬罪に当たりますかね。ふふ、はは……」  どうやらニコラの笑いのツボに入ってしまったらしい。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加