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エレオノーラが静かに怒っているのは誰もが感じて、それぞれが焦っていた。
一方でニコラは嬉しそうに破顔している。
「国王殿下より王命を賜ったからでございます。来月の婚約発表に向けて、エレオノーラ王女殿下の野菜嫌いを克服していただくようにと。つまり、専属料理人となるよう仰せつかりました」
「な、なんですって」
チーズケーキをニコラへ向かって投げつけなかったのは、エレオノーラのせめてもの矜持だった。
*
エレオノーラは、来月、クチナーレ王国の第一王子と婚約発表を控えている身である。
ヴェルドーラが農業立国ならば、クチナーレは美食大国。三方を海に囲まれ、食材が豊富なことで食文化が発展してきたという歴史がある。
クチナーレはヴェルドーラの発展した農業を求めて、今回の婚約を申し入れてきた。ヴェルドーラは王国ではあるものの、クチナーレに比べればはるかに小さな国である。大国であるクチナーレと関係を持つことでメリットがあると感じた国王、つまりエレオノーラの父によって、婚約は承諾された。
(……お腹が空きました……)
夜、目が覚めてしまったエレオノーラは、ランタンを手に部屋を抜け出した。
普段ならば心ゆくまで菓子を食べて眠りについている時間だ。
(これも全部、お父さまとあの料理人のせいですわ)
すると、キッチンに灯りが点っていた。
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