やっと気づいたこと

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 あいつのことを考えていたからなのか、自分がなぜか徒歩で帰っていたことに気がついた。 「うーわ、最悪」  店から出て五分は歩いている。このまま歩いて帰るか、とも考えたがそれはそれで明日が面倒だ。自転車はバイト先に停めてある。明日もシフトが入っている。 「くっそ」  思わず近くにあった自販機のゴミ箱を蹴り上げてやろうかと思った。だがなんとか冷静さを取り戻した俺は、踵を返してバイト先の焼肉店へと戻った。  三月の夜道はまだ冷える。  春休みももうすぐ終わり。二十歳になって何かが変わったのかといえば、何も変わってはいない。バイトバイトの日々だ。  大学生なんて遊んでナンボだろ、とか店長は言っていた。 「ナンパしてさ、飲みに行って、部屋でヤリまくって、ちょっと寝て、次の日はパチンコなんか行ってさ、夜はバイトだろ? で、バイト終わりにまたナンパだよ。俺が学生だった頃はそんな感じで毎日が過ぎていったね」  焼肉屋の店長は三十代後半。昔ヤンチャしてたのか、耳にはピアスの跡がある。仕事終わりによく聞かされた話だ。でも、どこか嫌気を感じないのは不思議だった。  ナンパなんてしたこともないし、したいとも思わないです。そんなことを言うと店長は決まって、「情けない奴だな」とため息混じりに俺の肩をぽんぽんと叩く。別に情けなくもないし、俺だって男だ。ヤリたいときはしっかりとヤル、それだけだ。    店が近づいてくる。すでに閉店しているためか、明かりはすっかり消えていた。店の中には店長もいるかもしれないが、わざわざ声をかける必要なんてない。  寒いし、チャリに乗って早く帰ろう。  そう思って駐輪場所へ向かっていたとき、男女の話し声が裏口付近から聞こえてきた。 「夜はやっぱり冷えるね。風邪引かないように気をつけないと」 「そうだな」  声の感じからすると、豊元明穂と島之内周平の二人じゃないかと推測ができた。 「……あのさ豊元」 「ん? なに?」 「……こんなところで言うのもなんだけど」  話し掛けてもよかったのだが、少しいつもと違うテンションの周平の声を聞いて、俺はバレないように物音を立てずに壁際で耳を傾けていた。角を曲がれば二人に見つかってしまうようなギリギリの距離感。   「……俺、お前のこと、好きなんだよ」 「え」
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